駒々亭風太郎作「風さんの独り言」(1)


【お題「秘密クラブ」】

東京・高円寺のほうに、味覚亭のOBがいる。
仮にF師と呼んでおこう。このF師、50歳代にもかかわらず、まだまだ青春の真っ只中。
落語を愛し、今だ高座活動を行っているだけでなく、駅伝・サッカーの応援など、
イベント大好き、活動的な人で、小生も日々、尊敬申し上げている。
このF師に騙され、いや、誘われ、池袋の某所に向かったのは、桜が咲き始めた3月下旬。
F師の誘い文句はこうである「ダンスパーテーに行きませんか?
日本人の仲間を探しています。中国語の勉強もいたしましょう!
多分、はじめはビックリするでしょうが、若さでカバーしてください」
小生、最近、仕事の関係で中国には興味があったし、それ以上に、
「はじめはビックリするでしょうが若さでカバー」という怪しい文言に、小生の好奇心の触手が動いた。
中国、ダンス、若さでカバー・・・そう、
『着飾った中国人女性が華麗なダンスショーを行って、そして親睦会(飲み会)、
その後は気に入った女性とともに、二人でチョメチョメ、あわよくばベッドで中国語の勉強』
な〜んていう、小生の勝手な解釈(創造力)が行動を起こさせた。
男って言うのは、どうしてスケベなんだろう・・・
F師とも久しぶりにお会いしたいし、時間も取れそうなので、ご一緒させて
いただくことにした。

駒澤大学落語くらぶ  

夜の池袋。これを聞いただけで怪しい謎めいた雰囲気が漂う。
F師との待ち合わせに遅れた小生は、直接現場へ向かった。
場所は、とあるビルの6階。F師は、もうすでに来ているはずである。
エレベーターを降りる。すると目の前に、数人たむろしている男性たちの姿。
その中に、これまた顔見知りのOBを発見!
「え〜っ、何で○さんがいるの!?」と、小生は驚く。
この方、我が落語くらぶ創設期の幹部OBである。
名前を言えば、落語くらぶ関係者なら誰でも知っている人だ。
「この人もスケベ心があって来たのか!?」
意外な場所での意外な対面に「益々、怪しい集まりだ」と感じる小生。
変な新興宗教だろうか?

会費600円を払い、室内に入っていくと、いるいる、ダンスに興じる男女のカップル。
薄暗い照明、流れる中国音楽。なぜか楕円形のミラーボールが気になる。
中国の曲に合わせ、ペアで踊っているやから、その数150人近くか。
一見、日本人と思いきや、これ全て中国人というから驚き。
な〜んだ、中国人の集まる、単なる社交ダンスの会か・・・
小生、自分のスケベ的解釈(創造力)の浅はかさを悲しんだ。
それにしても、中国人女性は妖艶だ。中には、モデル並のチャーミングな女性も。
ブルー、オレンジと派手な衣装を着ている人、足がスラッと長く美しい。
しなやかに動く腰つきが、なんとも言えぬ。
ダンスに興じる中国の女性を見ながら、幹部OBいわく、
「中国の女性って新大久保(風俗的水商売)にいる人しか知らなかったからなあ・・・」
聞くところによると、幹部OBは、この日で2回目の参加だと言う。
でも、ダンスは出来ない。ただいま勉強中とか。
「ダンスはできないが、女性の匂いを嗅ぎに来た」らしい。
ん〜、本能に素直な幹部OBである。

で、F師はと言うと、お〜いたいた。若い中国人女性と張り切って踊っているではないか!
腰を動かし、実に楽しそうで、パワフルだ、フォー!
そう言えば、このF師。高円寺の阿波踊りでも踊っているし、音にあわせ体を動かすことにはたけている。
F師から踊れと言われるが、小生、ダンスのダの字も知らない。
全くやったことがない。踊れと言われても・・・しかも、シラフだ。
(この会は健全で、飲めるのは水とお茶だけ)
何とかこの場から早く立ち去るための策を講じていたとき、F師の友人で、
上海出身の一人の中国人男性がやってきて、小生と幹部OBに、ステップの基礎を教えてくれた。
声がやたらに大きいのは気になるが、実に親切な方である。
そのころF師は、他の女性と楽しくステップを踏んでいたことは言うまでも無い。


駒澤大学落語くらぶ  

さて、ダンスも終わり、いよいよ小生が楽しみだった親睦会となった。
某大手チェーンの居酒屋へ。幹部OBを始め、F師、F師の仲間の前述上海の男性と中国人女性3人、
そして小生の計7人のこじんまりした親睦会。
幹部OBは、車で来たというのでノンアルコールだ。
中国の人たちは、みな日本語ができるので助かった。アルコールが入ると話も進む。
靖国問題、領海域問題・・・
日中間の懸案となっている、こうした話題は全くあがらず、和気アイアイの中、どこにでもあるような、
普通の飲み会となった。楽しいと時も早く立つ。
11時を過ぎ、お開きである。
またの再会を約束し、おのおの家路に着こうとする。
埼玉方面、高円寺方面、中国人女性の一人は横浜だとか。

小生、駅に向かおうとすると、「じゃあ、俺たち車で帰るから」とF師。
F師たちみんなは高円寺だから、ここ(池袋)からタクシーで便乗して帰るほうが安いのかな?
いやいや、そうではない。
なんと幹部OBが、みんなから送らされるハメになっているのだ。
すると、横浜の中国人女性が「私も送ってくれる?」とひと言。
おいおい、いくらなんでも横浜は無理でしょう。
ところが幹部OB、笑顔で承諾。
池袋から高円寺経由で横浜までって、これは、かなり長距離だ。
幹部OBに対して、アッシーの役を務めさせるとは、恐れ多い人たちだなあ・・・と小生は思ったが、
中国人たちと、酔っ払ったF師には関係ないらしい。
幹部OBの優しさが美しいと感じる小生。

イヤ、待てよ。幹部OBが送っていくのは良いが、最後に残るのは、中国人女性ただ一人である。
しかも彼女はアルコールも入っていて艶っぽい。どこかにシケ込んで・・・・・・
いや〜、実にうまい作戦を幹部OBは考えたものだと、小生は感服である。
その後、幹部OBと中国人女性がどうなったかは定かではないが、
ヘタなギャグより、「下心がなさそうな振る舞いと女性を包み込むような温かい優しさ」が、
日中友好には必要なのだと感じる一夜であった

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